死を感じた 西馬音内盆踊り

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 先日、十数年ぶりに羽後町の西馬音内盆踊りを見に行ってきた。盆踊りの開催期間中は、普段は昼しか営業しないそば屋が夜も営業するので、それも目的であった。関東のそばほど細くなく、つゆもまろやかでかんでおいしいそばである。

 羽後町に向かう途中、今年新しく出来たカフェに立ち寄った。コーヒーは素晴らしい味で、店内の本棚もセンスが光る。一日中そこに座ってコーヒーをすすっていたかったが、その日はそばと盆踊りが待っていたので早々に切り上げた。

 久しぶりの西馬音内はそば屋も会場も人混みが尋常ではなかった。かがり火を前にして、生と死が混在するかのようなエロチックな踊りに見とれていたら、彦三頭巾をかぶった踊り手から突然私の本名を呼ばれた。

 心臓が止まるかと思った。亡者に名前を呼ばれた? なぜ? 死に神? 俺はもうじき死ぬのか? その正体は土崎に住んでいる同級生で、もう8年も踊りに参加しているとのこと。頭巾の中からはよく見えているのね……。

(朝日新聞秋田版 2025年8月29日掲載)

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