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「腑に落ちる」行動

秋が深まり、風がずいぶん冷たくなってくるなか、世の中は人のグローバルな往来を従来通りに戻していく方向にかじを切ったようだ。人々の接触機会が増えれば様々な対策を施しても、新型コロナに感染する機会も増えることになる。だから、当然そのリスクを前提にした動きであるはずだが。

感染によって数多くの命が失われている一方、ウイルス対策によって、あるいはウイルス騒動で生じた人々のいびつな行動で損なわれたものも多くあるのではないかと思う。知人たちの話を聞く限り、これは都市部より地方の方が圧倒的に問題が大きいようだ。個人的には、感染症そのものより、それに対する人間の行動の方が問題だと感じる。多くのSF作品で書かれてきた監視社会が有形無形問わずまさに現実となっている。「未来のことを本気で危惧(きぐ)しているのはSF作家だけだ」という言葉を聞いたことがあるが、案外的外れではなかったと実感する。

それにしても、私には腑(ふ)に落ちないというか何か釈然としないもやもやした気持ちがある。このウイルスとはいや応なく付き合っていかなければならない。なので!感染に気をつけながら、なるべく今まで通り、控えめに、出かけることにしようと思う。「腑に落ちる」行動をしておきたいのだ。とりあえず。

(朝日新聞秋田版 2020年10月24日掲載)

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柳葉さんの秋田愛

今週のサタナビっ!は休みで、3時間半の特番「秋田を応援!あしたへスイッチ!スペシャル」が放送される。その番組で、私が酒を飲んでクダを巻くという恒例企画「一合一笑」が放送されるが、今回初のゲストをお招きした。俳優の柳葉敏郎さんだ。よく通っているという地元の温泉施設ユメリアの一室で撮影し、終始柳葉さんのホームゲームのような様相で進んだ。気さくでいい人だと聞いてはいたが、演じる役のせいもあって物静かで言葉数も少なめ、経験が豊かで意志が強い、言わば船の錨(いかり)のようなイメージを私はひそかに持っていたのだ。

しかし。酒を飲みながらという雰囲気も手伝ってか、最初から最後まで抱腹絶倒、笑いっぱなしの収録。私自身の柳葉さんのイメージは完全崩壊。気さくどころの話ではない。初対面の時の会話を見逃さないでいただきたい。ただのおやじギャグ……。

あんまり面白すぎて話の細かい内容は覚えていない。だから私自身、放送が楽しみである。みなさんもぜひ番組をご覧になって、日本を代表する俳優が秋田を愛し住み続けているのだということを改めて知って欲しい。それと私は今回、愛することと愛されること、二つが同時にあって幸せなのだという当たり前のことを確信したのだ、爆笑しながらも。

(朝日新聞秋田版 2020年09月26日掲載)

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岐路に立つ 興行界

5月に秋田拠点センターアルヴェ内の映画館ルミエール秋田が閉館した。コロナ禍の最中、休業のままで閉館かとさみしく思っていたら、緊急事態宣言が解除され、休業要請の対象から外れて上映が可能になり、さよならセレモニー開催が急遽決まった。そこで司会を依頼されたわけだが、秋田市の映画館の閉館に立ち会うのは3回目(施設を含めれば4回目)で、自分が映画の介錯人になったようで複雑な気分だった。まあ、それはともかく。現在、コロナ禍で映画のみならず、興行の世界は岐路に立たされているように見える。今までのやり方では制作も販売もままならないだろう。観客としては固唾をのんでただ見守るのみ。やきもきするばかりだ。

これで市内の映画館は郊外のシネコンを残すのみとなり、昭和40年代ごろは8館はあったはずだが、スクリーンの数で言えば同じ程度。しかし上映作品の多様性は失われているように感じる。映画産業は地域格差が大きい。都会では満員御礼でも地方はガラガラだ(おかげで3密の心配は薄い)。このままでは映画がスクリーンで見られなくなるかもしれない……なんて心配してしまうのだが、現在、元ルミエール秋田は週末限定で上映を再開し復活に向けて関係者が奮闘中だ。驚くほど短期間での再開に感謝したい。応援請う!

(朝日新聞秋田版 2020年08月01日掲載)

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いまが踏ん張り時

コロナ禍によって人と人の距離を極端に取るようになってずいぶんになる。ニンゲンがニンゲーーーンになってしまった。歴史的な人間の営みの全てを破壊するかの勢いで、人間とは何か、なんて哲学的な問いまで浮かぶ。ヒトが生物として無意識に行動する部分すら制限し、人を思い気遣うという大切で不可欠な気持ちを否定されているようでもある。それと、一致団結しなければならない時なのに、旗振り役を全く信用できないという現実が、陰鬱(いんうつ)な空気感を増幅させているようにも思える。

欧州に住む友人から、同居人以外とも会えるようになったとか車に複数で乗車可能になったとか、もろもろの制限が緩くなってきたと聞いたのが5月下旬。東京の友人から、たまに酒を飲みながらたわいのない話をするとか、何でもない雑談をする、ということがいかに意味があったかと繰り返し電話で聞かされたのも5月下旬。国内の緊急事態が解除され、様々な制限が緩められたのも5月の終わりごろだ。今月に入り、さらに制限が緩和され移動の自由が戻りつつある。しかし、思考することなく目的と手段を取り違えた行動も目立つようだ。リーダーも情報もあてにできないんだから仕方ない部分もあるけれど。情けないし理不尽な話だがここは一人一人が踏ん張るしかないかもしれない。

(朝日新聞秋田版 2020年06月27日掲載)

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恐れるべきものは

今年1月、私が舞台関係の仕事をしていた頃に大変お世話になった演出家が亡くなった。3月、その演出家のお別れ会が新型コロナウイルスの感染拡大によって流れてしまった。4月、秋田に来てからも毎年交流を持っていた方が感染し、アビガン投与のかいなく入院して間もなく亡くなってしまった。火葬もままならず、遺族関係者は大変苦労されたようだ。それまで、ニュースで伝えられるただの数字にしか過ぎなかった死亡者数が、一気に現実味を帯び暗い冷たい感触を伴って私にのしかかってきた。

今回のコロナ禍は、他者を恐怖させ格差を拡大し人間の本性を暴き出す驚異の効果を持っていた。恐れるべきはウイルスのはずなのに、他人におびえそれが怒りに転化し、自分以外の誰かを攻撃する人たちが増えている。経済的格差も広がり行き場を失う人も多い。そのせいか、非科学的な言動や行動ばかりがメディアにあふれているようにも見える。うそや無責任が横行し「全力、責任、検証、適正、あらゆる、確認……」、ここ数年ですっかり意味をなさなくなった言葉の数々(私たちにも少なからず問題はあるけれど)。何が適切な対処方法なのか、怪しくなるばかり。たぶん、私も怒りからこれを書いているわけで……よくない、よくない。

(朝日新聞秋田版 2020年05月30日掲載)

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