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「居たい町」なら住み続ける

だいぶ前の話だが、劇作家の平田オリザ氏が「面白い町、つまらない町」という言葉を使って、文化の有り様や地方の町のこれからについて語っていた。「その町がその人にとって面白ければ若者はある一定数は戻ってくる」と。

 人口流出の理由の第一に雇用問題があると言われがちな中で(確かにそれは大きな問題だが)、実はその前に人がそこに面白みを感じ、「居たい」と思うことが重要なのだと私も思う。誰かがそこに居たいなら、それが本当に大事なら、居続ける方策を探し選び、住み続けるはずだ。

誰かがそこにいる理由は様々で「好きだ、楽だ、土地や収入がある」。逆に離れる理由がないということかもしれない。やりたいことを選ぶ。何かを守ることを引き受ける。おのおの自分にとって大事なものは違い、だから「居る」「離れる」理由というのは、ものすごく個人的な問題が大きくあったりして、社会の仕組みで解決できることばかりではないだろうと想像する。まあ、ごく当たり前の話なんだけども。

社会が関われる余地はどれくらいかわからないけれど、大事なのは人と人との間の問題かなーと、思う。

(朝日新聞秋田版 2022年07月08日掲載)

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生きたヤツメと格闘の末

最近はあまり見なくなってしまったが、秋田の食文化にヤツメウナギがある。ウナギとは全くの別物で、円口類というあごのない原始的な種なのだが、形が似ているし、資源量が激減していることもウナギと同様である。だからやっぱり値が張る。それと世界各国で盛んに食されていることも似ているところだ。

内臓肉のような独特の風味を持ち、苦手な人もいるようだが、私の好物のひとつだ。塩焼きや、みそ味の鍋が美味。欧風、中華風の食べ方もかなりいける。

そんなヤツメを知人からいただいた。しかし、家庭で生きたヤツメをさばくのは大仕事で、軍手と目打ちは必須。ぬるぬるした体でのたうち回り、目打ちを突き立てることもなかなか困難なのだ。やっと押さえてぶつ切りにしたのだが、まな板は血の海だ。「ひーっ」と私の後ろでカミさんが悲鳴をあげる。今回は串打ちして塩焼きにした。

悲鳴をあげていた富山出身の家人は、秋田に来るまでヤツメというものを知らなかったが「やっぱりヤツメはさばきたてだねー、歯ごたえと香りが違う」と、今やすっかりお気に入りである。生きたやつを相手するのは常に俺だけども。

(朝日新聞秋田版 2022年06月03日掲載)

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甘い香り、辛み、春のお楽しみ

うちの庭のサンショウの若芽が最盛期だ。一般的には「木の芽」と呼ばれる。明るい緑色が美しい。日本を代表する香辛料のひとつで、爽やかな甘い香りと辛み、わずかな苦みを持ち、料理に彩りを添える。と、言うか、見た目も味わいも木の芽があるとないとでは全然違うのである。

私の大好物で、毎年この時期になるといかにして木の芽をたっぷり食べるか、香辛料が主役のメニューを考えることになる。

葉っぱをぷちぷちと摘んでいるだけで爽やかな香りにつつまれる。指先にその香りが移るので、摘み取った後はしばらくの間、指先をくんくん嗅いでは満足そうな笑みを浮かべている怪しい奴になってしまう。

タケノコとの相性は抜群なので、一番は若竹煮だ。孟宗竹(もうそうちく)を湯がいてワカメと煮含ませ、器に盛ったらその上に木の芽をどっさり。竹の子ご飯にして、それにもどっさり。吸い物、みそ汁や煮魚にも欠かせない。スパゲティを和風に仕上げてオリーブオイルとともにたっぷり。刻んで木の芽味噌(みそ)も作る。ちびちびなめながらの日本酒は最高だ。

若芽の後は熟す前の青い実の出番。我が家の春のお楽しみはもう少し続く。

(朝日新聞秋田版 2022年04月29日掲載)

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懐かしさに浸った休日

先日、何としてもスクリーンで観たい映画が盛岡の映画館で上映していたので、カミさんと二人で観に行って来た。「これは実話である」から始まるが完全なフィクションというブラックコメディー。コーエン兄弟の代表作のひとつである「ファーゴ」だ。

この傑作を語るには紙幅が足りないのでここでは書かないが、絶対のオススメであります。ぜひ、劇場で!

1996年の公開当時、初日からひと月経っても東京・渋谷の映画館が満席状態だったくらいヒットしていた。大入りの客席と映画館の黒い壁も一緒に思い出す。その建物は再開発のため取り壊され、今はない。

今回は映画を観るためだけではなく、お目当てのランチがあった。しかし、その店は臨時休業。仕方なく他を探すことになったのだが、たまたま入った店の日替わり定食が美味で、調子に乗って、続いて近くにあった昭和の香りが漂うたたずまいの喫茶店に入った。

椅子のカバーや壁までも当時のままだろうと思われる店内。若い女性の二人組がアクリル板越しにおしゃべりしている。私はコーヒーゼリーの上にソフトクリームがたっぷり乗った代物とコーヒーのセットを頼んで、アクリル版を挟んでカミさんと向かい合う。「面会に来ているみたいだねえ」。その経験はないが、そうだなあと思った。

(朝日新聞秋田版 2022年03月26日掲載)

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いい映画 余韻に浸りたい

濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が世界各国の映画賞を受賞し、それを受けて全国で再上映が始まった。昨年夏に公開された映画だが、秋田でも先週からスクリーンで観られるようになった。

早速夫婦で出かけた。夫婦50割引でお得に鑑賞できるのだ。映画館は結構混んでいて、いつもこれくらい入ればいいのになあとふと思う。

2人とも村上春樹の小説が好きで、実はそこが一番興味を引かれた点だった。映画は三つの短編小説を再構築し、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」が内包されている。戯曲のせりふが原作と共鳴し、観る者の心を揺さぶる。

主人公が舞台俳優兼演出家という設定なので、意図的に手話を含めた多言語が使われる演劇の場面が重ねられ、それらがメッセージとして観客に伝わってくる。上映時間は約3時間だが全く長さを感じさせない。そのうえ、「もう1回観たい」とカミさんに言わせるのだ。私も同感であった。

いい映画を観ると余韻に浸りたい。語りたくもなる。「村上春樹の物語を使って、チェーホフに語らせているって感じ?」「あの赤いサーブは…」「今度読み直す?」「…生きていかなきゃね」。話は長くなり、腹をすかせた息子を2時間待たせてしまった。でも、たまにはいいでしょ。

(朝日新聞秋田版 2022年02月05日掲載)

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