あいたいAAB

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親も新しいステージに

3月。卒業、別れの季節だ。ニュースでもこの時期、学校の卒業式の映像が必ず流される。しかし、今年は何ともさみしい様子ばかりである。我が子らの卒業式も中止、あるいは簡素化され、保護者の参列はなかった。子どもたちはいかにも物足りない顔を見せていたが、実を言うと私は式とか会とかにはあまりありがたみを感じていないので、それほど残念には思わなかったというのが本音である。もちろん面と向かってそんなことは言わないけれど。

今年中学を卒業する子らは、小学校入学直前に東日本大震災を経験した。そして今年は新型コロナウイルスだ。親にとっては忘れがたい記憶である。よほどのことがない限り、子どもらには来月から新しい生活が始まる。今はその準備でてんてこ舞いだ。先日もアパート探しに県外まで出かけてきた。私にとっては初めての街で、厳しい日程だったが肝心のアパートもあっさり見つかり、親としてはもう少し検討して決めたいところだったのだが、本人がいいと思えばいいのであった。後は本人がちゃんと学ぶ環境を整えるだけだ。まあ、それが心配のタネなわけだが。私たちも親として新しいステージに立たされた。これから、心配も楽しみのひとつに……できるかなあ……。親は心配する生きものなのだ。

(朝日新聞秋田版 2020年03月25日掲載)

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音楽でよみがえる記憶

秋田市内に雪がほとんどない。こんな冬はちょっと記憶にないが、道路は大変走りやすいので、遠方までドライブをしてきた。私のポンコツ車には、これまた古い音楽プレーヤーがつなぎっぱなしにしてあって、数千曲かけ放題。それには「シャッフル」という楽しい機能があり、設定しておくと誰かが手当たり次第にCDをかけ替えているかのように、アルバムや曲ごとに再生してくれるのだ。たまには気分じゃない曲がかかることもあるが、大抵の場合は偶然の出会いを楽しむ。若い頃、アメリカに滞在した時に持っていった数枚のアルバムも入っている。もっとも、当時はカセットテープだったけれど。

そのアルバムの曲が流れた時、突然その頃のことがよみがえってきた。お世辞にもきれいとは言えないベッドカバー、サイドテーブルの上の散らかった様子、薄汚れた壁、その部屋の匂いすら感じるほど鮮明に頭の中に浮かんできたのだ。「こりゃすげぇ!」。車のハンドルを握りながら、思わず声に出た。

思い出したこと自体にひどく驚いた。記憶とはこんなにも音と結びついているのか! 何でもかんでも忘れっぽくなっているこのごろ、大した理由はないにせよ、何かを思い出すっていうのは「イイこと」のように思えたのだが……、年を感じた如月。

(朝日新聞秋田版 2020年02月26日掲載)

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不穏な空気 温泉で流して

ぬるりと特に何の感慨もなく新年を迎えてしまった。心配になるくらい雪がない暖冬で、体が冬を感知していないせいもあったかもしれない。しかし新年早々、仕事始めの日に抜歯されるという思わぬ出来事があり、これは初詣のおみくじで凶を引いたせいかと新年の多難を予感させられたものだが、「神社が初詣の時期のおみくじに凶を入れとくもんかねえ?」などと悪態をつきたくなるのも仕方がないではないか。ただ、抜歯に関しては昨年から予定されていたもので、治療の流れとしてたまたまその日になっただけらしい。まあ、覚悟はしていたのだが。最近やっと歯が無くなった空間に慣れてきた。

何やら不穏な空気感漂う新年のスタートを切ったわけだが、先日の大館の取材ではそんな全てを洗い流してじんわりと穏やかな気分にさせてもらった。秋田犬がいる「ふるさわおんせん」である。夢のお告げで掘ったら湧き出た温泉で、レトロで町の定食屋のような雰囲気が漂う宿だ。日帰り入浴も格安でできる。秋田犬の母娘に迎えられただけで気分が休まる。簡素な浴槽だが、ナトリウム硫酸塩泉のお湯がいい。その温泉水で炊いたおかゆがまたうまい。オシャレ度は低いが、なぜだか気持ちがゆったりするのだ。今度は取材なしで泊まろうと思った。

(朝日新聞秋田版 2020年01月22日掲載)

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時間に追われ 焦る師走

また一年が過ぎようとしている。師走はまるで時間が加速するかのようだ。そんなはずはないのだが本当に1週間が短く感じる。あっという間にまた生放送である。このままではまた何も出来ないうちに新年を迎えてしまいそうで、はっきりとしないが確かにある焦燥感のようなものがじわじわ増幅していくような、いやーな日々である。

何しろ、何をしていいのかわからないのに何かしなくちゃいけないとあせっているのだから、何も進展するわけがない。一方のカミさんには具体的にやらなければならないことが山積みのようで、その多くは、どうやら私に原因があるらしい。この認識の差はもはや絶望的なほど深く大きく、まともに向き合うと大惨事になりかねない。少しずつ少しずつ山を崩し谷を埋めていく必要があるのだ。

しかしそれでは間に合うはずもなく、年を越すごとに問題が残っていき、一方はすぐそのことを忘れ一方は今後のスケジュールにきっちり組み込む。

誰がどう見たってスケジュールに組み込む方が正しいのだが、まぎれもなく正しくない私にとってはなかなか出来ない相談なのだ。決して開き直っているつもりではないけれど、間違いなく、怒りを買う羽目になる。うう、年末なんて無くなってしまえ!

(朝日新聞秋田版 2019年12月18日掲載)

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農産物は「大地の恵み」

先月下旬、友人から「かほり」という梨をもらった。ご存じの通り、香りの良さとジューシーさ、上品な甘みが特徴の大ぶりな梨である。天王にある友人の実家で作っているとのことで、ありがたいことに、毎年のように持ってきてくれるのだ。ハンコ屋の私から、お返しするものが無いのが無念である。

夏が暑かったのと秋に雨が多かった影響で例年以上に大きく育ったとのこと。試しに量ってみたら、1.5キロあった。こんなものが木から落ちてきたら万有引力を発見する前に気絶してしまう。もっともニュートンのリンゴの話は作り話らしいけど。

今年は、全国の広範囲で台風や豪雨の被害が甚大で、その惨状には言葉を失う。迅速な復興を願う。一方で、秋田県内の被害はそれほどでもなく、友人の実家でも無事収穫出来ているようだ。彼の印象では「秋田は奥羽山脈に守られている感じがする」らしい。例年の台風被害の少なさは、山菜などにも良い影響を与えているという話も聞いたことがある。

秋田の農産物はうまい。言葉通り「大地からの恵み」だし、関わる人たちの努力のたまものだ。この恵みに感謝し、その恩恵を末永く受け続けられるよう祈るのみだ。そのために、私たちは何が出来るのだろう? かほりをほおばって、考えてみる。

(朝日新聞秋田版 2019年11月20日掲載)

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