あいたいAAB

新岡 智昭

チャットモ「完結」心に穴

いつだって気ぜわしさと寂寥を帯びて近づくのが年の瀬。1年を顧みると、私にとって最大の事件は、人気バンド・チャットモンチーが7月に解散、本人たちの言葉を借りれば「完結」したことだ。

音楽、とりわけロックに心酔するきっかけをくれた。中学時代に親友に勧められて以来、青春をチャットモンチーと歩んだと言っていい。部活をサボってラジオの公開放送を見たり、聖地巡礼と称して出身地の徳島を訪ねたり。メンバーの変遷があっても、変わらない力強い音が大好きだった。

だが、最後のライブには行けなかった。その日はカレーを食べる佐竹敬久知事を取材していた。ライブの模様を収めた作品が先日発売され、深夜に何となく後ろめたい気持ちで見た。デビューから13年、音楽を追及し続けた姿が詰まっていた。そして、全ての曲に自分の思い出がひもづいていると感じた。

「思い出なんていらないって つっぱってみたけれど いつだって過去には勝てやしない」

最後に演奏された曲の一節だ。チャットモンチーの「現在」は二度と更新されないのだろうか。何かを失ってから、その大切さに気づくことがある。やり切ったという彼女たちの思いとは裏腹に、心には穴が開いている。いつか「未来」を聞きたい。

(朝日新聞秋田版 2018年11月28日掲載)

新岡 智昭

好きな旅で学んだこと

「DO WHAT YOU LOVE」

夏休みに訪れた米国・ロサンゼルスの市中で目にした看板の文言が妙に心に残っている。

私は一人旅が大好きだ。目的は非日常を味わうため(空港の入国審査ではこんな言い方はしないが……)。格安のドミトリーに泊まり、行き先は当日に決める。観光客の近寄らない店にも進んで入る。不便なことや怖い思いをすることも多いが、その分凝り固まった心がほぐれていくようで気持ちが良い。

それを「自分探し」と揶揄する人がいる。だが、旅をするだけで変われるほど人間は簡単ではない。そうは言いながら、どこかで旅に答えを求めている。今の生き方で良いのだろうか、未来の自分はどうあるべきか。

最終日、同室のイタリア人が勧めてくれたサンタモニカのビーチに行ってみた。静かに夕日を眺める男女、絶景には目もくれず泳ぐ青年、ギターを弾きながら歌う老人。私の矮小な憂いとは関係なく、それぞれ生きている。底抜けに楽しそうな顔を見ていたら、あれこれ考えるのが馬鹿らしくなった。

「好きなことをやりなさい」。多様性を受け入れる国の広告とひんやりとした潮風が、そっと教えてくれた気がした。

(朝日新聞秋田版 2018年10月10日掲載)

新岡 智昭

夢を諦めないのも才能

6年前、就活生だった。アナウンサーを志し、全国津々浦々、放送局の採用試験に毎日のように赴いた。しかし30社以上受けても内定は出ない。居酒屋のアルバイトでためたお金は、交通費や宿泊費で底をついた。試験を終えて汗だくで帰る夕暮れ時、「やっぱり才能がないのかな、諦めようか」。ついネガティブ思考に陥る自分が嫌だった。

放送作家・鈴木おさむさんの「芸人交換日記~イエローハーツの物語~」(太田出版)に出会ったのはその頃。結成11年目を迎えてもなかなか売れないお笑いコンビの話だ。物語の終盤、登場人物の言葉が心に突き刺さる。「夢を諦めるのも才能だ」と。

苦しい状況から救ってくれる、ありがたい言葉にも思えた。だが同時に悔しさも増した。数日間この言葉と格闘し、「逆に夢を諦めないのも才能だろう」と開き直ることで頑張れた。

夏の高校野球秋田大会で、初めて野球の実況を担当した。球児にとっては、甲子園という夢をめざす舞台。小学5年の頃、テレビのプロ野球実況に憧れたのがきっかけでアナウンサーを志した私にとっては、一つ大きな夢がかなったことになる。至らないことばかりだったが、第100回大会という節目に携われて幸せだった。夢を諦めなくて良かった。

(朝日新聞秋田版 2018年08月08日掲載)

新岡 智昭

昇格の喜び 次は秋田で

先月行われたブラウブリッツ秋田のホーム戦で、アスルクラロ沼津の富田康仁選手と久々に会いました。彼は昨シーズンまでツエーゲン金沢に所属し、2014年のJ3優勝とJ2昇格を知る男です。私は石川県で働いていた時に、チームの取材を担当。富田選手とは同い年で「お互いまだまだ頑張ろう」と言葉を交わしました。

ツエーゲンもホームスタジアムの改修を課題としていましたが、県が改修工事を決定。それが原動力となり、J2クラブライセンスを条件付きで取得しました。「リーグ2位以内に入り、1試合の平均観客数3千人以上という条件(当時)を達成するのは困難」との声も多かったのですが、シーズン序盤から勝利を重ねると、懸念は期待や熱狂の声へと変わりました。今はJ1をめざして戦っています。

選手やサポーターと喜びを分かち合った、あの経験を秋田でもしたい。「一つのチームのためだけに税金を使うのはいかがなものか」という声もあり、新スタジアム建設が簡単な話でないことは承知しています。ただ、「優勝したのに昇格できない」なんて悲しすぎます。J2という格のクラブが存在することは秋田の価値を高めると信じて、地域に根差したプロスポーツチームを応援していきます。

(朝日新聞秋田版 2018年05月23日掲載)

新岡 智昭

「MC」って?臆せず答え赤っ恥

「『MC』とは何の略語か」。5年ほど前、私がテレビ業界に入ってまもない春の頃である。音声を担当する大先輩に、こう尋ねられた。

私は「メインキャスターの略語だと思います!」と、張りきって答えた。すると、その先輩は苦笑を浮かべ、「MCの仕事などお前には百年早い」と言った。

後に分かったことだが、MCとは「マスター・オブ・セレモニー」の略語、すなわち司会を意味する。「顔から火が出るほど恥ずかしいとはこのことだ!」。ひざを打ちながら、私は発言を大いに悔やむのだった。

4月から社会人になる若者のみなさま。臆せずにモノを言うのは知らぬ者の特権だが、時には痛みを伴うということを頭の片隅にでも置いていただければ幸いだ。

閑話休題、4月から夕方のニュース番組「トレタテ!」の水曜から金曜のMCを担当することになった。旅行の荷造りをしている時と同じような、ワクワクした気持ちでいっぱいだ。丁寧な取材と誠実な放送を常に心がけたい。

まったく関係ない話だが、ある業界においてMCとは「マニュファクチャーリング・コスト」。つまり製造原価を意味するらしい。

(朝日新聞秋田版 2018年03月30日掲載)

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