あいたいAAB

新岡 智昭

前向きな気持ちで

今年の春、ニューヨークに遊びに行く計画があったが、代替案の検討を余儀なくされた。情勢が悪化の一途をたどるなか、国内旅行もかなわず、隣県の野外音楽フェスティバルは延期、いつか行こうと思っていた県内のすし店は臨時休業。マンハッタンの摩天楼は、最終的に高級うな重の宅配に変貌(へんぼう)を遂げた。

悶絶(もんぜつ)するほどの美味をもたらした高級うな重とお店には感謝している。それでも代替は代替に過ぎず、ウナギ一匹にすべてを背負わすのは無理がある。根っからのアウトドア派の私はどうも代替を受け入れるのが苦手で、リモート飲み会も、あらゆる「おうちエンタメ」も肌に合わなかった。でも、それを口にするのも何だか憚(はばか)られるご時世だ。

安心して日本を出られる日は、まだ当分来ないだろう。物理的に遠くに行けないならと、この夏、自転車を買ってみた。これまでの最長走行距離は、自宅から青森県深浦町まで2泊3日で往復240キロ。移動だけで時間と体力を奪われるが、自分の力で前に進んでいる感覚は、気持ちまで前向きにしてくれる気がして心地良かった。

制約がある中でも、何とか楽しみを見つけて生きていこう。そんなことを思い始めた矢先、夜風が冷たく頬をなでた。次の一手を打つ時が迫っている。

(朝日新聞秋田版 2020年11月14日掲載)

新岡 智昭

球児に心から敬意

能天気な夏空に虚無感を覚える。目には見えざる敵によって、目に映る多くのものを失った。大切な思い出、受け継いできた伝統。高校野球も例外ではなく、憧れの聖地は見果てぬ夢に終わった。

アナウンサーとしてスポーツに携わり5年目(写真は初めて実況を担当した高校相撲の全国大会の時に撮影。手前が筆者)。2020県高校野球大会では3試合、放送席に座った。選手の一挙一動を伝えることはいつもと変わらないし、目の前で繰り広げられるのは紛れもない真剣勝負。だが、敗者の涙しかり勝者の笑顔もしかり、その背景がいつもと違うことは想像に難くない。当事者でもない我々が、何か言葉を掛けることもはばかられる気がして複雑な思いだった。

金足農業高校をかつて率いた嶋崎久美さんに、今大会の意義を尋ねる機会があった。「集大成の舞台があれば、将来振り返ることができる」と嶋崎さんは即答した。「努力したことは一生無駄にならないし、一人ひとりの思い出は永久に消えない」とも続けた。
 たゆまぬ努力の結晶が、今年の夏に本来望んでいた形になることはかなわなかった。それを受け入れながら、最後の一秒まで誇り高く戦ったすべての高校球児たちに、誠に僭越(せんえつ)ながら、心からの敬意を表したい。

(朝日新聞秋田版 2020年08月15日掲載)

新岡 智昭

写真に思うキューバ

家で過ごす時間が激増している。決して本意ではないが、仕方がないと思わざるを得ないご時世。フラストレーションを解消するため、これまでに撮影した写真を見返して追憶にふけっている。

中南米の島国・キューバを3年前に訪れた。18世紀に造られたコロニアル様式の建物が並び、色とりどりのクラシックカーが走る素敵な街だ。首都・ハバナの旧市街で詐欺に遭ったことがある。良い店を知っているから行こうと声を掛け、飲食代をおごらされるという手口で、その存在は知っていた。だから私は「観光客が入れないような店に行きたい」と興味本位で頼んでみた。

真偽のほどは定かではないが、案内された店は怪しげな路地裏の中にあり、他の客は明らかに好奇の目を向けていたので良しとしよう。彼は私の金でビールを飲みながら、私が撮った写真を見たいと言い出した。私は賛辞の意を込めて見せたのだが、彼は「ハバナの一部分しか見ていない」と不機嫌そうだった。

今にも崩落しそうな家で暮らす人々、ゴミのたまり場、深夜の旧市街を闊歩(かっぽ)する野良犬……結果としてそういう写真がアルバムの後半には収められている。美しい思い出だ。いつか再訪したら、彼に「君の話が日本の新聞に載った」と伝えてみようかな。

(朝日新聞秋田版 2020年05月16日掲載)

新岡 智昭

雪なき冬に寂しさ

かなり控えめに言って、日本海側の冬が得意ではない。大学卒業まで太平洋側で暮らし、北陸・金沢で迎えた23歳の冬は、周りから心配されるくらいドンヨリとした気持ちで過ごしていた。「昔に比べたら雪は少なくなった」という言葉は、なんの慰めにもならなかった。雪の量なんてどうだっていい、鉛色の空が続く日々が大問題だったのだ。もしもウィンタースポーツになじみがあれば、捉え方は違っていたのかもしれない。

そういう意味において、今季の冬は穏やかに過ごせた。だが、本格的な春の訪れを目前にして、そこはかとない物悲しさを感じている。それは、雪かきをほとんどしなかったことに起因している。アパートの駐車場で雪かきをしていると、自然と近所の人との会話が増える。「一晩で結構積もりましたね」などといったたわいもない内容だが、普段のあいさつよりも何だか情緒があって好きだったのだ。

雪が降らなくて寂しいなんて、23歳の私が聞いたらきっと腰を抜かす。新社会人のみなさま、これから様々な経験を積むだろうが、その瞬間に感じたこととは違うことを数年後に思うこともあるものだから、気長に頑張っていただきたい。……なんて陳腐なアドバイスを送ってしまうのも、年をとったせいかな、なんちゃって

(朝日新聞秋田版 2020年04月04日掲載)

新岡 智昭

初の記録番組に集大成を

今年7月で30歳になる。「もっと立派なオトナになっていると思った……」と嘆息する人の話をしばしば耳にするが、私は「まずまずの出来では?」なんて自己評価している。幸い、生活には困っていないし、心身ともに健康だからだ。

何よりテレビの仕事が楽しくて仕方ない。幼い頃から憧れていた世界で、不遜な言い方だが、曲がりなりにもプロの伝え手として働けている。とは言え今の実力には満足していない。毎日が修業である。

ただ、最近ふと思う。自分の「伸びしろ」はどれくらい残っているのかと。尊敬する先輩たちの背中が、何年経っても同じ大きさに見える。新人時代に思い描いていた理想像に到達できるのか分からない。それでも時間は容赦なく流れるし、良くも悪くも日々の仕事に忙殺されてしまう。

このたび、全国放送のドキュメンタリー番組「テレメンタリー」を制作することになった。バラエティー色の濃い旅番組や科学教養番組などの経験はあるが、ドキュメンタリーは初めての挑戦。大海原にボート1艇で繰り出すような気分だ。本格的な取材はこれから始まるが、パドルをこぐ手はすでに汗ばんでいる。あわよくば順風よ吹け。研鑽の集大成を見せる時が来た。今年も忙しい1年になりそうだ。

(朝日新聞秋田版 2020年01月15日掲載)

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