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新岡 智昭

筋書きないドラマ実況

「野球は筋書きのないドラマ」。大洋(現DeNA)を初の日本一に導いた三原脩さんの名言である。しかし、それはプロ野球に限らず、高校野球100年の歴史の中でも幾度となく証明されてきた。

筋書きがないとはいえ、中継に携わる私たちが何も考えないわけではない。日本代表戦などと異なり公平を期すことが大前提だが、試合展開によっては同じシーンであっても「得点したい」になることもあれば「しのぎたい」になることもある。ひとごとだ、と怒られそうだが、ドラマが生まれることを期待して画作りしたりコメントしたりしているのだ。

夏の秋田大会決勝。4点を追う明桜が八回表に1点を返し、なおも2死満塁。打席には今大会無安打の代打・土居涼太選手。彼の表情、彼に声を掛ける加藤洋平主将の表情を見て、何かが起こりそうな予感がした。カメラは土居選手のアップ、「3点差です!2アウトです!満塁です!」と盛り上げた。その直後、打球はセンターを越え、明桜が一時同点に追いついたのだった。 

初の決勝戦実況、拙劣で至らないことも多かったが、高校球児が巻き起こすドラマを目の当たりにできて光栄だった。次は秋田大会の激闘を制した秋田中央の甲子園での活躍に期待したい。

(朝日新聞秋田版 2019年08月07日掲載)

新岡 智昭

趣味を楽しむ余裕 やっと

最近、趣味のジョギングを再開し休日や出勤前に1時間ほど走っている。高校時代は陸上部の長距離が専門だったが、そろそろその「貯金」も尽きてきた。思っていたよりも早く息があがったり、筋肉痛が長引いたりする様にウンザリしてしまうのだ。
 この春で社会人7年目。大学卒業時から体重は8キロも増えた。健康づくりのためのジョギングとはいえ、不思議なもので仕事にも良い循環が生まれる。走っていると行き詰まっていた考えがスルスルとまとまったり、新しい仕事のアイデアが浮かんだりする。趣味と実益を兼ねる、とはまさしくこういうことを言うのだろう。
 思えば新社会人の頃、趣味を楽しむ余裕など全くなかった。目に映るもの全てが新鮮で、毎日身体じゅうの血管が膨張しまくっているような気分だった。いつも疲れ切っていて仕事をしていない時間は働くための体力を蓄える時間でしかなかった。
 「そのうち慣れる」と先輩に言われた記憶はあるが、実際にいつから仕事に慣れたのか、もはや思い出すことはできない。過去の自分が現在の姿を見たらどう思うだろうか。胸をなで下ろしそうな気もする。いや、生意気な私のことだから「余裕があるならもっと働けよ」と白い目をするに違いない。

(朝日新聞秋田版 2019年05月29日掲載)

新岡 智昭

カメラマンの嗅覚に感謝

先月1日、私と佐藤見(けん)カメラマン(周囲に佐藤姓が多く、親しみを込め「見さん」と呼んでいる)は沖縄にいた。日本ハムの2軍キャンプに臨む吉田輝星投手の取材だ。大勢の報道陣が殺到するため、「独自の切り口が欲しい」と考えていた。

しかしチャンスは訪れない。吉田投手の一挙手一投足を皆がほぼ同じ場所から撮るのだから、それは当然。どうしたものかと思案していると、見さんがつぶやいた。「柿木君ってすごい……」

大阪桐蔭の柿木蓮投手のことだが、見さんが注目したのはその所作。新人の中で誰よりも積極的に雑用を買って出る姿を捉えていたのだ。「高校時代は逆に『先輩が動いて後輩たちに見せる』という指導だった。周りを見る練習にもなる」。柿木投手は事もなげに話した。激しいチーム内競争を勝ち抜いた彼らしい発言に襟を正す思いがした。

「昨夏の甲子園を沸かせた2人」だけにとどまらず、彼がいかに素晴らしいライバルであるか。そんなことも伝えたくて後日、特集を作った。それを可能にしたのはカメラマンの「これはトピックになる」と感じた嗅覚に他ならない。放送では言えなかったのでこの場を借りて御礼申し上げる。ああ、もっと自分も嗅覚を研ぎ澄ませないと。

(朝日新聞秋田版 2019年03月13日掲載)

新岡 智昭

吉田投手がつないだ再会

「北海道日本ハム、吉田輝星…。」

去年10月、プロ野球ドラフト会議でその名前が読み上げられる。報道フロアで堰を切ったように歓声が沸き起こる中、私は別の意味でも喜んでいた。「あの方とまた一緒に仕事ができる」と。

あの方とは、日本ハムの1軍投手チーフコーチを務める木田優夫さん。5年前、金沢の放送局で働いていた頃、木田さんは独立リーグ・石川ミリオンスターズの投手兼GMで、スポーツコーナーで共演していたのだ。

その頃を振り返ると、ひたすら恐れ多い。提案したネタを上司にことごとく却下され、あろうことか木田さんに助けを求めたことがあった。しかし無礼に呆れながらも助言をくださった。私的なことで相談することもあった。偉大な先輩であり、優しい兄貴分だと勝手に思っている。

去年12月、特別番組のゲストとして秋田に来ていただいた。互いに金沢を離れ、もう共演することはないと諦めていたので、実は涙が出るほど嬉しかった。木田さんは吉田投手の未来について率直に話してくださった。その中で「球団の方針として、なるべく1軍の試合を経験してほしい」という高卒1年目からの活躍を予感させるコメントも飛び出した。

秋田の星が北海道で輝く日が来るのが、今から待ち遠しい。

(朝日新聞秋田版 2019年01月30日掲載)

新岡 智昭

チャットモ「完結」心に穴

いつだって気ぜわしさと寂寥を帯びて近づくのが年の瀬。1年を顧みると、私にとって最大の事件は、人気バンド・チャットモンチーが7月に解散、本人たちの言葉を借りれば「完結」したことだ。

音楽、とりわけロックに心酔するきっかけをくれた。中学時代に親友に勧められて以来、青春をチャットモンチーと歩んだと言っていい。部活をサボってラジオの公開放送を見たり、聖地巡礼と称して出身地の徳島を訪ねたり。メンバーの変遷があっても、変わらない力強い音が大好きだった。

だが、最後のライブには行けなかった。その日はカレーを食べる佐竹敬久知事を取材していた。ライブの模様を収めた作品が先日発売され、深夜に何となく後ろめたい気持ちで見た。デビューから13年、音楽を追及し続けた姿が詰まっていた。そして、全ての曲に自分の思い出がひもづいていると感じた。

「思い出なんていらないって つっぱってみたけれど いつだって過去には勝てやしない」

最後に演奏された曲の一節だ。チャットモンチーの「現在」は二度と更新されないのだろうか。何かを失ってから、その大切さに気づくことがある。やり切ったという彼女たちの思いとは裏腹に、心には穴が開いている。いつか「未来」を聞きたい。

(朝日新聞秋田版 2018年11月28日掲載)

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