あいたいAAB

新岡 智昭

初の記録番組に集大成を

今年7月で30歳になる。「もっと立派なオトナになっていると思った……」と嘆息する人の話をしばしば耳にするが、私は「まずまずの出来では?」なんて自己評価している。幸い、生活には困っていないし、心身ともに健康だからだ。

何よりテレビの仕事が楽しくて仕方ない。幼い頃から憧れていた世界で、不遜な言い方だが、曲がりなりにもプロの伝え手として働けている。とは言え今の実力には満足していない。毎日が修業である。

ただ、最近ふと思う。自分の「伸びしろ」はどれくらい残っているのかと。尊敬する先輩たちの背中が、何年経っても同じ大きさに見える。新人時代に思い描いていた理想像に到達できるのか分からない。それでも時間は容赦なく流れるし、良くも悪くも日々の仕事に忙殺されてしまう。

このたび、全国放送のドキュメンタリー番組「テレメンタリー」を制作することになった。バラエティー色の濃い旅番組や科学教養番組などの経験はあるが、ドキュメンタリーは初めての挑戦。大海原にボート1艇で繰り出すような気分だ。本格的な取材はこれから始まるが、パドルをこぐ手はすでに汗ばんでいる。あわよくば順風よ吹け。研鑽の集大成を見せる時が来た。今年も忙しい1年になりそうだ。

(朝日新聞秋田版 2020年01月15日掲載)

新岡 智昭

海外かぶれ 何が悪い

「あと1分45秒で電車が到着します」。先月、夏休みに訪れたスペイン・バルセロナの地下鉄のプラットホームで目にした電光掲示板の表示である。1秒ずつカウントダウンされる光景を眺めていると、本当に時間通りにやってきたので驚いた。鉄道ダイヤの正確さに感心する外国人、という姿は日本のみのステレオタイプだと思っていたのに、見事にその逆を演じてしまった格好だ。

眼前にそびえ立つ建築中の世界遺産「サグラダ・ファミリア」や、名門サッカーチーム「FCバルセロナ」の本拠地に足を踏み入れた瞬間の感動は言うまでもないが、その前段階、何げない日常までもが海外旅行初心者の私にはいちいち新鮮に映り、楽しくて仕方がない。宿泊先の民泊や飲食店で、付け焼き刃のスペイン語が通用しないこともしばしばあるが、そんなネガティブな出来事すら、愉快な非日常として捉えることができる。

今ではすっかり海外に「かぶれている」私だが、初めて日本を出たのは大学の卒業旅行。それまでは外国に行って浮かれている人を何となく否定していた。なんと恥ずべき、もったいないことだろう!その経験は日々に劇的な変化をもたらさずとも、刺激的なエッセンスを与えてくれるというのに……。

(朝日新聞秋田版 2019年10月09日掲載)

新岡 智昭

筋書きないドラマ実況

「野球は筋書きのないドラマ」。大洋(現DeNA)を初の日本一に導いた三原脩さんの名言である。しかし、それはプロ野球に限らず、高校野球100年の歴史の中でも幾度となく証明されてきた。

筋書きがないとはいえ、中継に携わる私たちが何も考えないわけではない。日本代表戦などと異なり公平を期すことが大前提だが、試合展開によっては同じシーンであっても「得点したい」になることもあれば「しのぎたい」になることもある。ひとごとだ、と怒られそうだが、ドラマが生まれることを期待して画作りしたりコメントしたりしているのだ。

夏の秋田大会決勝。4点を追う明桜が八回表に1点を返し、なおも2死満塁。打席には今大会無安打の代打・土居涼太選手。彼の表情、彼に声を掛ける加藤洋平主将の表情を見て、何かが起こりそうな予感がした。カメラは土居選手のアップ、「3点差です!2アウトです!満塁です!」と盛り上げた。その直後、打球はセンターを越え、明桜が一時同点に追いついたのだった。 

初の決勝戦実況、拙劣で至らないことも多かったが、高校球児が巻き起こすドラマを目の当たりにできて光栄だった。次は秋田大会の激闘を制した秋田中央の甲子園での活躍に期待したい。

(朝日新聞秋田版 2019年08月07日掲載)

新岡 智昭

趣味を楽しむ余裕 やっと

最近、趣味のジョギングを再開し休日や出勤前に1時間ほど走っている。高校時代は陸上部の長距離が専門だったが、そろそろその「貯金」も尽きてきた。思っていたよりも早く息があがったり、筋肉痛が長引いたりする様にウンザリしてしまうのだ。
 この春で社会人7年目。大学卒業時から体重は8キロも増えた。健康づくりのためのジョギングとはいえ、不思議なもので仕事にも良い循環が生まれる。走っていると行き詰まっていた考えがスルスルとまとまったり、新しい仕事のアイデアが浮かんだりする。趣味と実益を兼ねる、とはまさしくこういうことを言うのだろう。
 思えば新社会人の頃、趣味を楽しむ余裕など全くなかった。目に映るもの全てが新鮮で、毎日身体じゅうの血管が膨張しまくっているような気分だった。いつも疲れ切っていて仕事をしていない時間は働くための体力を蓄える時間でしかなかった。
 「そのうち慣れる」と先輩に言われた記憶はあるが、実際にいつから仕事に慣れたのか、もはや思い出すことはできない。過去の自分が現在の姿を見たらどう思うだろうか。胸をなで下ろしそうな気もする。いや、生意気な私のことだから「余裕があるならもっと働けよ」と白い目をするに違いない。

(朝日新聞秋田版 2019年05月29日掲載)

新岡 智昭

カメラマンの嗅覚に感謝

先月1日、私と佐藤見(けん)カメラマン(周囲に佐藤姓が多く、親しみを込め「見さん」と呼んでいる)は沖縄にいた。日本ハムの2軍キャンプに臨む吉田輝星投手の取材だ。大勢の報道陣が殺到するため、「独自の切り口が欲しい」と考えていた。

しかしチャンスは訪れない。吉田投手の一挙手一投足を皆がほぼ同じ場所から撮るのだから、それは当然。どうしたものかと思案していると、見さんがつぶやいた。「柿木君ってすごい……」

大阪桐蔭の柿木蓮投手のことだが、見さんが注目したのはその所作。新人の中で誰よりも積極的に雑用を買って出る姿を捉えていたのだ。「高校時代は逆に『先輩が動いて後輩たちに見せる』という指導だった。周りを見る練習にもなる」。柿木投手は事もなげに話した。激しいチーム内競争を勝ち抜いた彼らしい発言に襟を正す思いがした。

「昨夏の甲子園を沸かせた2人」だけにとどまらず、彼がいかに素晴らしいライバルであるか。そんなことも伝えたくて後日、特集を作った。それを可能にしたのはカメラマンの「これはトピックになる」と感じた嗅覚に他ならない。放送では言えなかったのでこの場を借りて御礼申し上げる。ああ、もっと自分も嗅覚を研ぎ澄ませないと。

(朝日新聞秋田版 2019年03月13日掲載)

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