あいたいAAB

新岡 智昭

写真に思うキューバ

家で過ごす時間が激増している。決して本意ではないが、仕方がないと思わざるを得ないご時世。フラストレーションを解消するため、これまでに撮影した写真を見返して追憶にふけっている。

中南米の島国・キューバを3年前に訪れた。18世紀に造られたコロニアル様式の建物が並び、色とりどりのクラシックカーが走る素敵な街だ。首都・ハバナの旧市街で詐欺に遭ったことがある。良い店を知っているから行こうと声を掛け、飲食代をおごらされるという手口で、その存在は知っていた。だから私は「観光客が入れないような店に行きたい」と興味本位で頼んでみた。

真偽のほどは定かではないが、案内された店は怪しげな路地裏の中にあり、他の客は明らかに好奇の目を向けていたので良しとしよう。彼は私の金でビールを飲みながら、私が撮った写真を見たいと言い出した。私は賛辞の意を込めて見せたのだが、彼は「ハバナの一部分しか見ていない」と不機嫌そうだった。

今にも崩落しそうな家で暮らす人々、ゴミのたまり場、深夜の旧市街を闊歩(かっぽ)する野良犬……結果としてそういう写真がアルバムの後半には収められている。美しい思い出だ。いつか再訪したら、彼に「君の話が日本の新聞に載った」と伝えてみようかな。

(朝日新聞秋田版 2020年05月16日掲載)

新岡 智昭

雪なき冬に寂しさ

かなり控えめに言って、日本海側の冬が得意ではない。大学卒業まで太平洋側で暮らし、北陸・金沢で迎えた23歳の冬は、周りから心配されるくらいドンヨリとした気持ちで過ごしていた。「昔に比べたら雪は少なくなった」という言葉は、なんの慰めにもならなかった。雪の量なんてどうだっていい、鉛色の空が続く日々が大問題だったのだ。もしもウィンタースポーツになじみがあれば、捉え方は違っていたのかもしれない。

そういう意味において、今季の冬は穏やかに過ごせた。だが、本格的な春の訪れを目前にして、そこはかとない物悲しさを感じている。それは、雪かきをほとんどしなかったことに起因している。アパートの駐車場で雪かきをしていると、自然と近所の人との会話が増える。「一晩で結構積もりましたね」などといったたわいもない内容だが、普段のあいさつよりも何だか情緒があって好きだったのだ。

雪が降らなくて寂しいなんて、23歳の私が聞いたらきっと腰を抜かす。新社会人のみなさま、これから様々な経験を積むだろうが、その瞬間に感じたこととは違うことを数年後に思うこともあるものだから、気長に頑張っていただきたい。……なんて陳腐なアドバイスを送ってしまうのも、年をとったせいかな、なんちゃって

(朝日新聞秋田版 2020年04月04日掲載)

新岡 智昭

初の記録番組に集大成を

今年7月で30歳になる。「もっと立派なオトナになっていると思った……」と嘆息する人の話をしばしば耳にするが、私は「まずまずの出来では?」なんて自己評価している。幸い、生活には困っていないし、心身ともに健康だからだ。

何よりテレビの仕事が楽しくて仕方ない。幼い頃から憧れていた世界で、不遜な言い方だが、曲がりなりにもプロの伝え手として働けている。とは言え今の実力には満足していない。毎日が修業である。

ただ、最近ふと思う。自分の「伸びしろ」はどれくらい残っているのかと。尊敬する先輩たちの背中が、何年経っても同じ大きさに見える。新人時代に思い描いていた理想像に到達できるのか分からない。それでも時間は容赦なく流れるし、良くも悪くも日々の仕事に忙殺されてしまう。

このたび、全国放送のドキュメンタリー番組「テレメンタリー」を制作することになった。バラエティー色の濃い旅番組や科学教養番組などの経験はあるが、ドキュメンタリーは初めての挑戦。大海原にボート1艇で繰り出すような気分だ。本格的な取材はこれから始まるが、パドルをこぐ手はすでに汗ばんでいる。あわよくば順風よ吹け。研鑽の集大成を見せる時が来た。今年も忙しい1年になりそうだ。

(朝日新聞秋田版 2020年01月15日掲載)

新岡 智昭

海外かぶれ 何が悪い

「あと1分45秒で電車が到着します」。先月、夏休みに訪れたスペイン・バルセロナの地下鉄のプラットホームで目にした電光掲示板の表示である。1秒ずつカウントダウンされる光景を眺めていると、本当に時間通りにやってきたので驚いた。鉄道ダイヤの正確さに感心する外国人、という姿は日本のみのステレオタイプだと思っていたのに、見事にその逆を演じてしまった格好だ。

眼前にそびえ立つ建築中の世界遺産「サグラダ・ファミリア」や、名門サッカーチーム「FCバルセロナ」の本拠地に足を踏み入れた瞬間の感動は言うまでもないが、その前段階、何げない日常までもが海外旅行初心者の私にはいちいち新鮮に映り、楽しくて仕方がない。宿泊先の民泊や飲食店で、付け焼き刃のスペイン語が通用しないこともしばしばあるが、そんなネガティブな出来事すら、愉快な非日常として捉えることができる。

今ではすっかり海外に「かぶれている」私だが、初めて日本を出たのは大学の卒業旅行。それまでは外国に行って浮かれている人を何となく否定していた。なんと恥ずべき、もったいないことだろう!その経験は日々に劇的な変化をもたらさずとも、刺激的なエッセンスを与えてくれるというのに……。

(朝日新聞秋田版 2019年10月09日掲載)

新岡 智昭

筋書きないドラマ実況

「野球は筋書きのないドラマ」。大洋(現DeNA)を初の日本一に導いた三原脩さんの名言である。しかし、それはプロ野球に限らず、高校野球100年の歴史の中でも幾度となく証明されてきた。

筋書きがないとはいえ、中継に携わる私たちが何も考えないわけではない。日本代表戦などと異なり公平を期すことが大前提だが、試合展開によっては同じシーンであっても「得点したい」になることもあれば「しのぎたい」になることもある。ひとごとだ、と怒られそうだが、ドラマが生まれることを期待して画作りしたりコメントしたりしているのだ。

夏の秋田大会決勝。4点を追う明桜が八回表に1点を返し、なおも2死満塁。打席には今大会無安打の代打・土居涼太選手。彼の表情、彼に声を掛ける加藤洋平主将の表情を見て、何かが起こりそうな予感がした。カメラは土居選手のアップ、「3点差です!2アウトです!満塁です!」と盛り上げた。その直後、打球はセンターを越え、明桜が一時同点に追いついたのだった。 

初の決勝戦実況、拙劣で至らないことも多かったが、高校球児が巻き起こすドラマを目の当たりにできて光栄だった。次は秋田大会の激闘を制した秋田中央の甲子園での活躍に期待したい。

(朝日新聞秋田版 2019年08月07日掲載)

TOPへ戻る

error: Content is protected !!