社長ブログ

2020/08/21

「夏」の終わりに | 林 敦彦

 連日うだるような暑さは続くものの、全国の高校球児の「特別な夏」は終わりを告げつつある。そういえば、昨年の8月22日は甲子園大会の決勝戦だったなと思ったりもする。その甲子園で、新型コロナウイルスの感染拡大で中止になった選抜大会選出校が対戦する1試合だけの「交流試合」も先週終わり、季節の変わり目を感じている。

 夏の甲子園大会と秋田大会が中止になり、かわりに開かれた秋田県高校野球連盟主催の独自大会は、高野連の先生方だけでなく、県教育委員会や県医師会の方々のご協力で無事に幕を閉じた。全国でも早い時期に大会が行われたこともあり、優勝した明桜をはじめ、秋田の球児たちの活躍は全国版のスポーツ紙などでも大きく扱われた。そんな中、野球の独自大会開催の正式決定よりも一足早く、全国高校総体とその県予選の中止が決まったこともあり、「なぜ野球だけが全県大会をやるのか」という疑問の声も多く聞かれた。秋田に赴任してからまもなく3年。「なぜ野球だけが」という問いは今年に限らず、いつもアタマの片隅に引っかかっていた。

 特効薬もワクチンもない未知のウイルスから高校生をいかに守るか。高校野球だけではなく、サッカーやバスケットボール、フェンシング、柔道など、屋内外を問わず、指導者や関係する先生方は何とか3年生が最後の夏に存分の力を発揮できる大会を開くため、感染予防策に奮闘されていた。最終的には国の指針で、各競技とも全国組織団体のガイドラインに沿って大会を実施してもいいことになったため、高校野球もそのルールに沿って実施された。ただ、全県大会をどこまで実施するかや、地域大会だけで終えるかどうかは、あくまでその地域での感染状況次第で判断するという方針が、日本高校野球連盟から示されていたため、茨城や福岡などのように、県のチャンピオンを決められないまま、大会を終えたところもある。

 朝日新聞社は例年、夏の甲子園大会と県大会の主催社として大会にかかわらせていただいているが、今回はその大会自体が中止になったため、独自大会には「後援」の立場でサポートしてきた。ただ個人的には甲子園を開けなかった贖罪の気持ちもあり、例年以上にお手伝いをさせていただいた。大会期間中は連日午前7時50分からこまち球場で朝のミーティング(朝会)が始まる。毎朝、高野連の先生方が感染症対策やその日の注意事項を確認するところから、ごいっしょさせていただいたことで、高校野球に携わる先生方の思いを昨年よりも体感できた。

 秋田の高校野球ファンの思いにも驚かされた。朝会が終わって、県大会の1、2回戦が行われた能代や横手の球場に足を運ぶと、外野のフェンスごしに試合の行方を見守るファンがいたり、スコアボードしか見えない球場のそばで、歓声に耳をそばだてながら、10人ほど野球ファンの集まりができたりしていた。控えの選手や保護者をのぞく「無観客試合」で行うことは、日本高校野球連盟が決めたルールだった。そうと知りながらも、会場近くで目を閉じて選手名をアナウンスする放送に聴き入るご高齢の方々の姿を横目に、後ろ髪をひかれる思いで、球場内に入ったことも何度かあった。おそらく、ほかの競技では、無観客で開かれる大会でそこまでするファンはいなかっただろう。

 秋田の高い野球熱は、親から子へ、先輩から後輩へと引き継がれる。サッカーやバスケットボールなどほかの競技の台頭もあり、昔に比べると、競技人口は減っているものの、指導者や県野球協会審判部の方々が小学校、中学校、高校となんとかバトンタッチしながら、何とか野球文化そのものを支えている。宮城県石巻市で開かれた軟式の東北大会で、秋田工が羽黒(山形)を破った試合。7回1死二、三塁で、平川君(1年)がスクイズして、二塁走者の川村君(1年)が懸命に走り、捕手のミットをかいくぐった。ダメ押しの2ランスクイズを決めた平川君は川村君の生還を見て、2年前の甲子園準々決勝の金足農対近江戦を思い出した。「あの試合みてました。二塁走者はそんなに足速くないんですけどね」とはにかんでいた。

 野球に限らず、部活動はあくまで教育の一環だ。でも、練習の積み重ねによる目標の達成感や仲間同士で醸成される信頼感など、その教育効果はもとより、選手、保護者や関係者、そしてファンの方々の熱量の違いが、野球とそれ以外の競技を分け隔てていることを、改めて感じた夏だった。

2020/07/08

「全力プレー」で悔いない夏を | 林 敦彦

 日曜日の昼下がり、県内の高校のグラウンドに面した道を車で走っていると、金網越しに、汗まみれの高校球児に見入っている人たちに出会うことがよくある。麦わら帽子の農作業帰りの方々や小さなお子さんを連れて解説しながら眺めている大人たちの姿をみるにつけ、秋田の高校野球は地域に溶け込んでいるんだなあと実感する。しばし、いっしょに紅白戦を観戦しながら、山口県の片田舎でスポーツ少年団の一員として白球を追っていた「遠い夏」を思い出した。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、秋田県内でも、2月から5月にかけて、そんな日常風景が一変した。グラウンドでの部活動どころか、学校にも登校できなくなり、球児たちの練習も工夫しながら各家庭で個別にするしかできなくなった(https://www.asahi.com/articles/ASN516TLBN4YULUC00N.html)。さらに、日本高校野球連盟と朝日新聞社が主催する第102回全国高校野球選手権大会および秋田大会も中止に追い込まれた。入学以来、あこがれの甲子園を夢見て、懸命に練習を重ねてきた3年生の球児や保護者の方々の思いを考えると、主催社の一員として、本当に申し訳なく、やりきれない気持ちになった。

 ただ自分自身、社会部や科学医療部で医療問題を長く担当し、厚生労働省担当として、新型インフルエンザなどの新興感染症の取材を重ねた経験から、まだ今回の新型コロナに対応できるワクチンどころか医薬品も十分に開発されていない現状では、球児のみなさんの健康を守るためにはやむをえないとも思っていた。県高校野球連盟の先生方や関係者のご尽力で、独自大会「2020秋田県高等学校野球大会」(https://www.asahi.com/articles/ASN6V6SFZN6VULUC02N.html)を開くことが決まってからも、当時は県内でも感染確認者の治療が続いている時期だったこともあり、地区大会や記念試合を何とか開ければというのが正直な気持ちだった。

 そんなとき、県高野連のある先生から「厳しい練習に耐えてきた野球部員は思い出作りの記念試合ではなく、ガチで自分たちの実力を試す機会を望んでるんです」と伺った。その話を聞いてからは自分自身もギアチェンジして、それまで以上に先生方をサポートしてきた。

 前年の選手権大会の写真提供や校正などの編集作業をお手伝いしている県高野連の公式パンフレット(https://twitter.com/asahi_akita/status/1280081105748541442)も例年以上の出来栄えで、準備できた。

 また通常の熱中症対策だけでなく、感染症対策を徹底するため、県医師会にもご助言をお願いしたところ、快諾いただき、新型コロナはじめ感染症や救急医療の専門家の先生方に球場での講習会やガイドライン作成などご尽力をいただいた(https://www.asahi.com/articles/ASN6X722RN6XULUC007.html)。これは日本高野連が示した感染対策ガイドラインを踏まえ、7月8日現在の県内の感染状況や県内の球場設備の実情も加味した、県高野連の独自のガイドラインだ。忙しい合間を縫って推敲してくださった先生方に、大会役員の一人として心からお礼を申し上げたい。(http://www.akita-koyaren.com/

 まだ十分に解明されていない新型のコロナウイルスとの特性から、この大会は手探りの運営になる。とにかくいまは無事に大会を終えられるよう、県高野連の先生方と万全の準備を進めている。感染防止対策のため、今大会は感染防止対策の一環で、選手の保護者たちや部員しか球場に入れない無観客試合となり、例年足を運んでいただく熱心な高校野球ファンの方に直接ご覧いただけないのは、本当に申し訳ないが、準々決勝からは秋田朝日放送のテレビやホームページ上で中継される。画面を通して、グラウンドで真剣勝負を繰り広げる選手たちに、どうか温かい声援をお願いしたい。

2019/08/28

幻想的な雰囲気を堪能 伝統のお祭りいつまでも | 林 敦彦

 夏の夜を楽しもうと、秋田が誇る「夏祭り」を見に出かけた。ひとつは全国三大盆踊りの一つに数えられる「西馬音内(にしもない)盆踊り」(羽後町)。一昨年秋に秋田に赴任することが決まってから楽しみにしていた祭りだった。ちょうどそのころ、名探偵が事件を解決する2時間もののサスペンスドラマの再放送で、この羽後町を舞台にしたシリーズが放映されていて、藍染めの浴衣に黒布の頭巾を被った男性が殺されて見つかるシーンが、不謹慎だなあと思いつつも、妙にアタマの片隅にひっかかっていた。

 盆踊り二日目の17日の夜遅く、友人が案内してくれた。かがり火が街道にたかれ、会場中心部に陣取った囃子方にあわせて、踊り手が一心不乱に踊る幻想的な雰囲気にしばし、ときを忘れて酔いしれた。にぎやかな「音頭」と、哀愁漂う「がんけ」の二通りの踊りについて、知人の解説をきいた後、一時間近く踊り手たちの手ぶりや足裁きをみていると、熟練度の違いがなんとなくわかってきた。「がんけ」で、くるっと一回転する場面で、草履と地面にまかれた砂が摩擦する音にも風情を感じた。ただ途中で草履の鼻緒が切れてしまい、踊りの列から脱退するのは、まだ踊りなれていない人だとも伺った。

 衣装も見どころのひとつ。華やかな「端縫い衣装」や、「藍染め浴衣」は先祖代々、「形見」として引き継がれることも多いそうだ。編み笠や彦三(ひこさ)頭巾で顔を隠して、素晴らしい踊りを披露する人をみつけると、男女問わず、どんな方だろうと顔もみてみたいなあと思う場面もしばしばだった。目の部分だけをくりぬいた彦三頭巾は妖しい雰囲気を漂わせているが、「亡者踊り」と呼ばれる所以でもあると聞いて、3年前にみたサスペンスドラマの原作者はこの雰囲気も引っかけていたのだと、得心がいった。

 「西馬音内踊り」をみた3日後の20日は、「花輪ばやし」を一目見ようと鹿角市へ。「山・鉾・屋台行事」の一つとしてユネスコ無形文化遺産に登録されている花輪ばやしは、先輩記者の記事でも知ってはいたが、なんとか実物をみたいと、秋田市から2時間半かけてたどりついた。JR花輪駅前に10町内の屋台が集結する最高潮となるタイミングになんとか間に合ったが、迫力たっぷりで圧巻だった。西馬音内踊りもそうだったが、夜の早い時間だけでなく、遅い時間まで多くの子供たちが残って、祭りを楽しんでいるのにも驚いた。羽後や鹿角の地元の方にきくと、正月やお盆期間よりも、祭りにあわせて帰省してくる人がまだまだ多いそうだ。二つとも国重要無形民俗文化財だが、これ以外にも秋田には多くの夏祭りがある。これからも、末永く続いてほしいと願わずにはいられなかった。

2018/08/24

「カナノウ旋風」にありがとう | 林 敦彦

 100回目の記念となる甲子園大会で、「準優勝」という偉大な業績を成し遂げた「金足農業」。ベンチ入りの選手全員が地元秋田出身で、県立の農業高校。ミラクルな逆転劇や全員野球で強豪校を倒し、いまや「カナノウ」の名前は全国に知れ渡り、社会現象にもなりました。主催社の一員として、甲子園で全6試合を観戦しましたが、猛暑のグラウンドで、力を出し切った選手や心からの声援を送っていた応援団の方々にお礼の気持ちを伝えたいと思います。

 今回このコラムに登場させていただいたのは、16年前に朝日新聞の社会部で上司だった桜井元さんの不吉な内容のブログを目にしたのがきっかけでした。1回戦の鹿児島実業との対戦直前に流れた、「秋田代表は南九州には分が悪い」という内容で、「初戦突破に向けて意気込んでいるときに、このKYな内容はなんだ」と思い、勝ったらブログで反省してもらおうと思い立ちました。でも、快進撃が続くうちに「カナノウ野球」の魅力にとりこになり、連絡をしそびれてしまいました。

 大会が終わったいまも、紫に染まったアルプス席でチャンスに鳴り響く吹奏楽のタイガーラグやGフレアの音がときおり、アタマに染み出てきます。立ったり、座ったり、大声で叫んだり、しびれるほど拍手したり。高校野球でこんな応援をしたのは初めての経験でした。

 上位に進むにつれ、アルプス席には、金足農業の関係者やOBだけでなく、秋田県内外からかけつけた、紫のグッズを身につけた高校野球ファンが目立つようになりました。3回戦の横浜戦での試合終盤の逆転3点本塁打、準々決勝の近江戦での意表をつく2ランスクイズでのサヨナラ勝ち――。いずれも劇的で、みんなが「漫画みたいだ」というのもその通りだと思います。

 そして、秋田県代表校として103年ぶりの全国選手権の決勝戦。エースの吉田輝星君が力尽き、大阪桐蔭の強力打線につかまって大差がつきましたが、最終回のスタンド全体にこだまする鳴り響く手拍子は今でも忘れられません。メディアでもさんざん取り上げられた通り、金足農は今大会の主役として、甲子園が「カナノウ劇場」になったと感じました。

 高校野球の魅力とはなんだろう――。朝日新聞秋田版では、総局の記者が昨秋から球児の戦いの軌跡や支える人たちの思いをつむいだ連載企画「白球百話」を紹介してきました。
http://www.asahi.com/area/akita/articles/list0500193.html

 秋田朝日放送や秋田県朝日会といっしょに取り組んだ「夢球場2018 夏の高校野球100回展」では、かつての高校球児と名将とのトークイベントだけでなく、連載「白球百話」の記事や甲子園で活躍した選手を写真パネル展で紹介しましたが、大勢の方が足を運んでくださいました。
https://www.asahi.com/articles/ASL6R4WKHL6RUBUB002.html

 秋田朝日放送で7月に放映された特別番組「名将たちが語るあの日あの時」座談会」では、「白球百話」の取材班キャップをつとめた山田佳毅記者と、今大会を担当した神野勇人記者が、甲子園をわかせた3人の名将にインタビューしました。
https://www.asahi.com/articles/ASL725S32L72UBUB00B.html

 最後まであきらめないひたむきなプレー。若者の無限の力を引き出してくれる甲子園という舞台。何事も全力で取り組む球児のすがすがしさ。連載企画や番組で確認した高校野球の魅力を、今回の100回大会で、金足農の選手たちが体現してくれているように感じました。

 決勝戦が終わった後の閉会式。甲子園の空に、虹があらわれました。100回大会から次の200回大会へ。これからもこの聖地で、未来の球児が高校野球の魅力をつないでくれると信じています。

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